一昔前の英国ドラマやコメディの世界へようこそ

1960-90年代の英国のドラマやコメディの独特の魅力をご紹介。ときどき英語のお話もします。

ロケ地、SFチックな難解なストーリー、シンプルな英語が魅力の「The Prisoner(邦題:プリズナーNo.6)」(英語解説有り)

今回は日本でも知る人ぞ知るの「The Prisoner」を取り上げてみたいと思います。日本では「プリズナーNo.6」という題名で放映されたそうですが、残念ながら私は日本語吹き替え版を見たことがありません。

このドラマシリーズは1967-68年に英国で製作放映され、主役を務める俳優のパトリック・マクグーハン(Patrick McGoohan)が製作にも関わっています。主人公は元スパイですが、物話の設定が近未来的でロケ地が英国らしくないところから、現代でも多くのファンがおり、さまざまな解釈がなされたりと、(その界隈では)なにかと話題に尽きないようです。

 

では早速本編の第1話”Arrival”をご紹介します。

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You tubeで出る自動翻訳がまあまあでしたので、今回はMERCURYさんのサイト"The Prisoner"--Episode One - POSP Appendix”も参考にさせていただきました。

 

<あらすじ>

冒頭はスパイだった主人公が上司と口論になり仕事を辞職し自宅に帰ったところ、睡眠ガスで眠らされ、「The Village (村)」に連れて行かれます。家具付きのコテージを自宅としてあてがわれた主人公は、住民に質問したり地図を入手しようとしたりして「村」の実態を知ろうとしますが、思うように行きません。

主人公は村を監視するNo.2に呼ばれ、仕事を辞めた理由と自分が持っている情報を話すよう促されますが拒否します。No.2のヘリコプターに同乗し、村を案内された主人公は、自由が無いことを除けばそこそこ快適で健康な生活が営めるようになっているといルという説明を受けます。主人公は、この村には何らかの理由で囚人となった人々が生活していおり、村人は番号で呼ばれ、自分がNo.6であることを知ります。

この村では脱出をしようとすると「ローヴァー( Rover)」とよばれる白い大きな球体に捕えられます。主人公も試みて失敗し、気絶した主人公は病院で旧知の友人に出会い、情報交換を試みますが医師に中断され、不気味な患者の姿を目にします。その後友人は窓から飛び降りて自殺をしたと知らされます。自殺した友人の葬式の列を見て涙を流す女性に話しかけると、彼女は脱出の手伝いを申し出ます。彼女からローヴァーを避けられる腕時計式の機器を受け取り、ヘリコプターに乗り込みますが、途中から操縦桿が中央制御され、やむなく村へ戻されてしまい、脱出失敗。。というお話です。

 

このドラマは、海外でも見られることを最初から意識して作られたのではないかと思います。ロケ地が英国っぽくないこと、英語に強い訛りがほとんどなく、映像や画面中の看板の文字などからも状況が理解できるように工夫されています。

 

冒頭の2:26までは主人公が拉致されるまでのいきさつを映像のみで表現しています。また、会話は早めで聞き取りは大変ですが、文字おこしされた文章を見ると、教科書のような基本的な表現が多く使われていることが分かります。

 

<英語表現のご紹介>

①No.2がNo.6に朝食について質問する場面:

11:45~

No.2: Tea or Coffee?

No.6: Tea.

No.2: Indian or China?

No.6: Either. With lemon.

No.2: One or two eggs with your bacon?

No.6: Two

No.2: That will be all.

説明:

Indian or China?:お茶の産地はどちらがいいか尋ねています

One or two eggs with your bacon?:いつものベーコンに付け合わせる卵は1個、2個のどちらにしますか?

この"your bacon" という表現は興味深いですね。

”How do you like your eggs? ”(卵の調理法はどうしますか?)という表現はよく使いますが、このyour には「あなたの好みの」「あなたの定番の」みたいなニュアンスがこもっています。

直訳すると「君がいつも食べているベーコンと、卵は1個か2個にするか?」となります。

村の上層部は、No.6に関して目視確認可能な情報はほぼすべて把握しています。つまり、No.6が朝食にいつもベーコンを食べることは分かっているということ。卵の数もわざわざ聞いていますが、映像から判断するに、卵2個がNo.6の定番だということも知っているようですね。

 

②職安での所長とNo.6とのやりとり

22:13~

Manager: And now the questionnaire. Just fill in your race, religion, hobbies...

What you like to read, what you like to eat... what you were, what you want to be... any family illnesses... any politics?

職安の所長が、No.6に質問票に記入するよう促す場面です。

what you were:前の仕事

直訳すると「何者だったか」ですが、ここは職安なので前の職業のことを尋ねていると考えるのが妥当です。

 

③村にある自分のコテージに戻ったNo.6とメイドとの会話

No.6は部屋に鳴り響く音楽を消そうとスピーカーを壊しますが、音は消えません。そのとき先ほど部屋から追い出したメイドが戻ってきます。そんなメイドにNo.6がたたみかけるように質問を浴びせかけます。

25:22~

No.6: How do you stop this thing?*

Maid: We can't.

No.6: Why not?

Maid: It's automatic.

No.6: Who controls it?**

Maid: I have no i---

No.6: Who runs this place?***

Maid: I don't know!   I really don't know!

***

*How do you stop this thing?:こいつはどうやって止めるんだ?

**Who controls it?:誰が制御しているんだ?

this thingとitは部屋に流れる音を指しています。

 

No.6: Have you never wondered? Have you never tried to find out?

<解説>

「疑問に思ったことは一度もないのか」と尋ねています。

"Have you ever~"「~したことはありますか」のeverがneverになることで強い口調になり、彼の苛立ちが伝わってきます。

 

No.6はメイドの身の上についても尋ねます。

No.6: And your parents?

Maid: They died when I was a child.

No.6: You don't remember them?

Maid: I've found out it's wiser not to ask questions. We have a saying here: "A still tongue makes a happy life".*

*"A still tongue makes a happy life":この「still」は「動かない」という意味なので「沈黙」という意味になります。

この後に逃げた人はいるのか、何人戻ってきたかなど、さらにNo.6の質問は続きメイドを困らせます(長くなるので省略)。

 

メイドはNo.6の信頼を得て情報を上層部に流せば自分は解放されるという交換条件を出されていることを告白します。

Maid: Put yourself into my position.* They offered me my freedom in exchange.

No.6: Exchange for what?

Maid: To get into your confidence. Make you trust me**. And tell them everything about you.

* Put yourself into my position:私の立場になって考えてください。("put oneself into one's position"~の立場になって考える)

**To get into your confidence.:あなたの信頼を得る。次の文章Make you trust meとほぼ同じ意味です。

 

No.6: Then they'd let you go? You believe that? With that knowledge in your head, you really believe that they'd let you go?*

Maid: I hadn't thought about that.

No.6: Obviously not.

Maid: They might. They might let me go. If you give me some sort of information. 

 

*With that knowledge in your head, you really believe that they'd let you go?

そこまで分かってて、奴らが逃がしてくれるとでも思ってるのか?

they'd let you go:"they would let you go" このwould は未来意思「~する意思がある」という意味。直訳すると「彼らに君を解放する意思があると本気で信じているのか?」となります。

 

<まとめ>

②でご紹介した職安で質問攻めにされて主人公が激怒する場面ですが、現在の私たちはそのような心理的な抵抗がだんだん薄れてきているような気がします。慣れとは恐ろしいもので、常に誰かとつながっていて、GPSで自分の現在の居場所を知らせ、カメラで監視されても気持ちが悪いと感じない。むしろ治安のためにはその方がいいだろう、といった考え方をする方も増えてきていますね。

また③でご紹介したメイドとの会話のシーンでは、「人は長期にわたって恐怖に支配されると、論理的な思考ができなくなる」という普遍的な事実が描かれています。権力者はその事実を利用して村の囚人を支配し、恐怖を感じていないNo.6にはそのような支配の仕組みが見えてしまうのです。

以前の世の中を知っている私たちはまだしも、そのようなデジタル管理社会で生まれ育った人たちは「The Prisoner」を見てどのように思うのでしょうか。1960年代に製作されたにもかかわらず、この物語は現代の私たちにたくさんの問いかけをしているように感じました。

 

...ということで、いろいろな見方が出来るThe Prisoner。英語の勉強にもなるし、物語としても十分楽しめるので、興味を持った方はぜひご覧になってみてくださいね。

 

では Have a nice day!