一昔前の英国ドラマやコメディの世界へようこそ

1960-90年代の英国のドラマやコメディの独特の魅力をご紹介。ときどき英語のお話もします。

イギリスのボロ下宿の大家と下宿人たちが織りなすシットコム『Rising Damp』(ライジング・ダンプ)

『Rising Damp』は1974年から78年まで英国で放映された、下宿を舞台にしたコメディドラマです。

下宿の大家で中年独身男性のリグスビー(Rigsby)、下宿に住む医大生のアラン(Alan)、若いとは言いがたい年齢の独身女性ミス・ジョーンズ(ルース)(Ms. Ruth Jones)、そして最初のエピソードで新しく入居するアフリカからの留学生のフィリップ(Phillip)の4人を中心に話が展開していきます。

下宿の建物は古くて薄暗く、かなり老朽化していますが、リグスビーは修繕やリフォームをする気はさらさらありません。住人の部屋にはズカズカ入ってくるし、相手によって家賃を変えてしまうリグスビーは、権威に弱い性格が禍してトラブルに見舞われることもしばしば。

なお、ドラマの途中で聞こえてくる拍手や笑い声は本物です。当時のシットコムでは、場の雰囲気を作るため、スタジオに本物のお客さんを入れて演技するのが普通でした。俳優さんとしてはなかなかやりがいがあったんじゃないでしょうか。

ではさっそく、ドラマ(第一話)の概要をご紹介します。(自動字幕表示可)www.youtube.com

 

<あらすじ>

アランがリグスビーのいる部屋に入ってきます。アランが今住む部屋は寒くて湿気が多いため、この空き部屋に移りたいとリグスビーに前々から訴えているのですが、高い家賃をふっかけられたりして話が先に進みません。そんな中、同じく下宿の住人のミス・ジョーンズが部屋に入ってきて、「自分の知り合いを一人下宿に住まわせて欲しい」とリグスビーに頼みます。

ミス・ジョーンズがベタ褒めする「男子学生」に軽く嫉妬を覚えつつもリグスビーは承諾しますが、その男子学生はアフリカからの黒人留学生だったことが分かります。

フィリップに対する好奇心を隠さないアランと、好奇心に加えてヤキモチと猜疑心と偏見で頭がいっぱいのリグスビーは、フィリップに話しかけたり質問攻めにしたりします。一方ミス・ジョーンズはエキゾチックな魅力を放つフィリップを誘惑すべく奮闘しますが、フィリップは全く乗り気ではありません。

大家と下宿人たちの絶え間ない邪魔に辟易したフィリップは、他の下宿を探そうと荷造りを始めます。

慌てたリグスビーはフィリップが出て行くのを止めるべく、もう少し静かな部屋がある、と言い、アランが既に入居している屋根裏部屋にフィリップが住むことを許可してしまうのでした。

では一部英語解説をします。英語のスクリプトはないので、自動翻訳などの助けを借りて英語を書き出しています。至らぬ点はご容赦くださいm(__)m

冒頭部分をご紹介します。

このドラマのタイトルがなぜ「Rising Damp」なのかが分かりますよ(^^)。

0:48-

Alan:Ah Rigsby. Have you thought any more about the room?

(リグスビー。部屋について考えてくれましたか?)

Rigsby: I've thought about it, yes.

(うん、考えたよ)

Alan: And you said you considered me.

(僕の事も考慮してくれるって言ってましたよね)

Rigsby: Did I?

(そうだっけ?)

Alan: Yeah, you did say that.

(ええ。言ってましたよ)

Rigsby: Oh, no. You couldn't afford a room like this.

(いやいや、君にはこんな部屋の家賃は払えないよ)

Alan: How much is it?

(いくらですか?)

Rigsby: Six.

(6ポンド)

Alan: Six! You can't charge six for this!

(6ポンドだって!この部屋で6ポンドの家賃は取れないでしょう!)*charge: 請求する

Rigsby: Why not?

(なんでだよ?)

Alan: It's too small.:

(狭すぎるもの) 

Rigsby: It looks small. That's a heavy wall paper. Should've used a paler color.

(狭く見えるだけだよ。壁紙の色が重たいせいさ。もっと淡い色を使うべきだったな)

But you could't get a room like this for less than six. 

(だけど、6ポンドより安い家賃でこんな部屋借りられないだろ)

I mean look at this. It's functional with just a hint of luxury.

(ほら、見てごらん。機能的でちょっと高級感もある)

Yes, it should appeal to the professional class. 

(知的職業人にウケるはずだよ)

All I've got to do is to get a phone in.

(後は部屋に電話を引くだけさ)

Alan: Who put a phone in, it looks like a telephone box!

(電話ボックスみたいな(この狭い)部屋に、誰が電話を入れるんですか!)

Rigsby: Very funny. But so small why do you want it?

(面白い事言うじゃないか。でもそんなに狭いって言っておきながら何故この部屋がいいんだ?)

Alan: Because it's freezing up there and it's damp!

(上の部屋はすごく寒いし、湿気てるからです!)

Rigsby: I've told you before, it is not a damp.

(前に言っただろ。湿気じゃないって)

Alan: I've got rising damp! My furniture is falling to pieces.

(地面から湿気が上がってきてるんです!家具がバラバラになりかけてるんですよ)

Rigsby: How can you have rising damp in the attic? 

(屋根裏に湿気がどうやって上がってくるんだよ?)

You are higher than the crows up there.

(君はカラスより高いところにいるんだぞ)

Should be very healthy like Switzerland.

(スイスみたいにすごく健康にいいはずじゃないか)

Alan: Switzerland?! Rigsby, my suits are going green.

(スイスだって!リグスビー、僕のスーツはだんだん緑色*になってきているんです)よ)*going green:おそらく「(湿気で)苔などが生えてきている」と考えられます

Rigsby: I don't deny your suits are going green, but it is not rising damp.

(君のスーツが緑色になってきていることは否定しないけど、床からの湿気じゃないよ)

Alan: What is it, then?

(じゃあ、何なんですか?)

Rigsby: Condensation.

(結露さ)

Alan: Condensation?

(結露だって?)

Rigsby: Yes. And you know why? Because you try to cook a five course meal on one gas ring. I can see a steam some nights.

(ああ。どうしてか分かるか?君が5コース料理をガスコンロ1口で料理しようとするからだ。夜に時々蒸気が見えてるぞ。)

Alan: That's because it's cold up there.

(それは上の部屋が寒いからですって)

Rigsby: Yes, of course it's cold. I never said it wasn't.

(ああ、もちろん寒いさ。寒くないなんて一度も言ってないだろ)

There is nothing between this house and the Urals.

(この建物とウラル山脈の間には何もないからな)

You're breathing the same air as the Tartars up there. Look how long they live.

(高地に住むタタール人と同じ空気を吸ってるんだぞ。彼らがどんだけ長生きか考えてみろ)

I should charge extra for that.

(その分追加でもらわなきゃ)

Alan: I can't go on like this* Rigsby.

(埒があきませんね、リグスビー)

*can't go on like this:こんな感じを続けられない->こんなの延々とやってられないよ っと言ったニュアンスです

 

ものすごい早口で屁理屈をまくしたてるリグスビーに対して、アランもがんばって言い返していますが、いまひとつ強気に出られない所をみると、おそらく相場よりも安いので足元を見られているのでしょう。

なお、冒頭で「6ポンド」と言っていますが、おそらく月ではなく週払いの家賃と思われます。

 

この後14:38~や19:16~で見られるミス・ジョーンズとフィリップのかけ合いもちょっとご紹介します。基本はミス・ジョーンズが迫って、フィリップが逃げ気味というパターンです。

14:38より、一部をご紹介します(この二人は互いをRuth, Philipとファーストネームで呼び合っています)。

 

Ruth : Philip, at last! I've been so impatient waiting for the others two go.

(フィリップ、やっとね!他の2人がいなくなるのをジリジリして待ってたのよ)

I wanted to give you a proper welcome. Are you all right for butter?*

(あなたをきちんと歓迎したかったの。バターは足りてる?*)*直訳は「バターは大丈夫?」。特に意味はないみたいですが、女性らしい質問ともいえます。

Philip: Do you think we should be doing this?

(僕たちこんなことしていいと思っているのかい?)

Ruth: You realize? This is the first time being alone since that night.

(気がついた?あの夜以来、2人きりなるのはこれが初めてよ)

Philip: What night?

(どの夜?)

Ruth: That night. You haven't forgotten, Philip?

(あの夜よ。忘れてしまって?)

Philip: Oh, that night.

(ああ、あの夜ね)

Ruth: Don't you remember? You said my skin is like a skin of fruit. I thought that was lovely. So poetical...What fruit did you mean? **

(覚えていないかしら?私の肌は果物の皮みたいだって言ったじゃない。素敵だって思ったわ。とても詩的...それってどの果物のこと?**

*英語では果皮のこともskinと言います。

Philip: Ruth, I'd rather busy at this moment. We've got to think of appearances.

(ルース。今忙しいんだ。世間体も考えないと)

*appearanceは「外見」の意味でよく使われますが、この場合は周囲からどう見えるか、つまり世間体を指していると思われます。

Ruth: I don't care about appearances. Let's be impulsive. Let's ruin life into the dregs.

(世間体なんて気にしないわ。衝動に身を任せて、一緒に堕ちましょう。)

*ruin lifeは「人生を台無しにする」 dregは「くず」

ここのポイントは、ルースとフィリップが互いの関係についての見解がずれているという点です。フィリップは学生とはいえ、「酋長の息子」(本人曰く)ということもあってか、かなり大人びていて、女性が迫ってきたくらいでは動揺するほどウブではありません。

一方のルースは、元々ちょっと変わった性格であるとはいえ、話している英語からおそらく下位中流階級(lower middle)の出身で、仕事を持った独立した女性で、それなりにちゃんとした(身持ちの堅い?)生活をしていることがうかがえます。

オクテ気味の英国人男性では物足りなく、異国から来たワイルドな彼と奔放なロマンスを経験したいという彼女の情熱というか妄想がひしひしと伝わってきます。

なお、ルースが「Are you all right for butter?*」とか「What fruit did you mean? **」と聞くところで観客の笑いが起きますが、これはロマンチックな会話の途中で彼女がふと現実的な質問をしたり、我に返ったりしているからだと思われます(パイナップルとかミカンとかじゃないといいですけどね)。

 

今では日本でもなかなか見られない下宿ですが、風呂トイレ付きのワンルームアパートではみられないノスタルジックで庶民的な雰囲気を味わっていただければ嬉しいです。

 

ではでは

Have a nice day!