ワーズワースと法廷をこよなく愛する弁護士のドラマ『Rumpole of the Bailey』(英語解説有り)-22/1/17更新
『Rumpole of the Bailey』(オールド・ベイリーのランポール)は1978-92年まで放映されたイギリスの法廷ドラマ。作者のジョン・モーティマーの父は弁護士で、彼自身も弁護士資格を持ち、法廷に立った経験があることから、リアリティ溢れる内容となっており、イギリスの代表的な法廷ドラマとして知られています。
このドラマの題名『Rumpole of the Bailey』のBaileyは、Old Bailey(ロンドンの中央刑事裁判所)を指します。
主人公ホレス・ランポールHorace Rumpoleは、刑事被告人の弁護を専門分野とする中高年の法廷弁護士(barrister:バリスター)です。法廷での弁護とワーズワースが大好きで、周りからは、出世して勅撰弁護士(Queen's Counsel:通称QC)などを目指すようせつかれますが、本人は全く興味がありません。妻のヒルダ(Hilda)は、他の弁護士の奥さんとランチでもなんとなく格好がつかないし、自分の尊敬する父がQCだったこともあって、何かと夫のランポールにプレッシャーをかけるのでした...
このドラマシリーズには、ランポールが引き受けるさまざまな事件や法廷の様子、そして弁護士仲間とのやりとりやなど、見どころがたくさんあります。ボストン・リーガルのような派手なパフォーマンスはありませんが、時には裁判官を煙に巻いたり、被告(多くは労働者階級の人たち)の本音や本質を見抜いたりする過程も描かれています。また、ランポールを演じるレオ・マッカーン(Leo McKern)の声はなかなかの迫力です。一部のエピソードついては翻訳本がでていますので、セリフが全部聞き取れなくても、翻訳本でストーリーを予習して、ドラマで雰囲気を楽しんでみてもよいかもしれません。
ちなみに、最近放送されたBBCのラジオドラマでは、このランポールの役を、シャーロックホームズで有名なベネディクト・カンバーバッチが担当しているようです。
では、本編の1つ『The confession of Guilt』の内容をご紹介します(自動生成字幕を出せます)。
あらすじ
少年たちがクリケットを観戦しに出かけた帰りに、その中の1人が、バス停にいた女性を刃物で刺します。疑いをかけられ逮捕された黒人の少年は、自分が刺したという自白調書にすでに署名をしてしまっているのですが、ランポールに対して、僕はナイフなんか持ってない、刺していない、と主張したため、ランポールは法廷で彼を弁護する決心をします。刑事がでっちあげた自白調書に少年が署名をしてしまったのは何故なのか...ランポールはある日その理由に気がつくのでした。
ここまで書くと、ああ、刑事が少年にプレッシャーをかけたとか、嘘の交換条件をもちだしたんでしょ、とか思うわけですが、そのどちらでもないところが、イギリスらしくもあり、このエピソードの面白いところです。
では、その肝となる部分の英語解説をします。
Youtubeの自動字幕はまあまあです。
46:25~
真犯人は誰か分かっているが裁判で勝ち目がないと思った少年が、「有罪なっても構わない」と大人たちに言う所から。
ランポールは有罪を認める書面を用意するので、サインしろと少年に言います。
Oswald: You've got the thing, Rampole?
(例のものかい、ランポール?)
Rample: Written instructions for you to sign. You can sign that can't you?
(君が署名するための書面だよ。署名はできるんだろ?)
Oswald: Yeah. I can write my name.
(ああ。名前は書けるよ。)
Rampole: No. Read it through first before you sign it. You should read through it.
(いや。署名する前に読みなさい。最後まで読まなければいけないよ。)
Oswald: OK. Read it.
(OK、読んだよ)
Rampole: You sure?
(本当に?)
Oswald: OK!
(ああ。)
Rampole: Why don't you read through out loud? Come on old dear!
(声を出して読みなさい。ほら。)
Just that we can be sure that you are perfectly clear.
(君が完全に理解していることを把握するためにね。)
Out loud..like you did down the nick.
(声に出しなさい。警察署でしたみたいに。)
*down the nick:警察署(イギリスのスラング)。nick を動詞で使うこともあります。I was nicked(逮捕された)なんていうのもイギリスのドラマでは良く聞きますね。
Rampole: Why didn't you tell us?
(何故私たちに言わなかったんだ?)
Oswald: What do you want me to do?
(僕にどうしてほしいですか?)
Rampole: I'd rather think I want you to fight old sweetheart.
(君には戦ってほしいね。)
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なお、このエピソードの1:17~で、ランポールのお得意のワーズワース暗誦とお決まりのフレーズ「She Who Must Be Obeyed」(日本語の翻訳本では「絶対服従のお方」)が出てくるので、ちょっと触れてみたいと思います。ここでいうSheとは妻ヒルダのことで、She Who Must Be Obeyedとは、"she whom I must obey" つまり、「(ランポールが)服従しなくてはいけない女性」ととれます。
ランポールは朝食の準備をしながら、ワーズワースの一節をそらんじています(内容は私には分かりません。ごめんなさい)。トーストの焦げた部分をナイフでせっせとこそげていると、「ランポール!」「ホレス!」と呼ぶ妻の声。「私のワーズワースを中断するとは!」といらだった後、奥さんのことを「Master of the blue horizon」、「She Who Must Be Obeyed」と皮肉っています。
翻訳本はこちら
ではでは...
Have a nice day!